2014年8月24日日曜日

ビデオゲームデフレ戦争 敗者無き勝利を

デフレ化するゲーム価格にインディ開発者が警鐘「現状に耐えられるデベロッパーが多いとは思えない」

「君たちはかつて20ドルの価値があった。それからファンになって残りの4作品をそれぞれ20ドルで購入したとすると、100ドルの価値を持つことになる。

今では、君たちは我々にとって1ドルの価値しかない。我々のゲームを全て購入してくれたとしても、5ドル分の価値だ。Valveや税務署、銀行に間引きされると、コーヒーのカップ半分以下の価値しかないんだ。」


実感したのは2010年晩秋の頃だったと思う。ルセッティアというタイトルのインディーズゲームが、普段はSteamにて$20で販売されているそのゲームがオータムセールで他4本のインディーズゲームとセットの$5で販売されていた。それら5本のタイトルの定価を合計すれば$100にも届きそうな額、それがたったの$5。90%以上の割引。衝撃的だった。
その1ヶ月後の年末のホリデーセールでは、その月の頭に発売された定価$15のSuper Meat Boyというインディーズゲームが$3.75で売られていた。発売から僅か3週間で75%offになってしまった。2chのSteamスレは定価で買った人の怨嗟とそれ以上にセールで買った人の歓声で溢れていた。この2つのグループの後者に属していた僕が感じたのは、圧倒的な勝利と絶対的な正義だった。

父親の借金の肩代わりにSteamという娼館へ連れて来られた少女ルセット
遠い町から売られて来たのだろう、俯いているその瞳には涙が

ゲームバンドルは正義、セール買いは勝利。
年を同じくして誕生したWolfire GamesによるHumble Indie BundleというPWYW(Pay What You Want)形式のゲームバンドルは瞬く間に業界を席巻し、ゲーマー達の空をそのドス黒い正義で覆い尽くした。それらはやがて雨となってゲーマー達の地上に降り注ぎ、HIB以外にも多数のPWYW形式のゲームバンドルが筍のように誕生し、今では猫も杓子もEAもスクエニもタイトルを提供しだす始末。
ゲーマー達はそれらの正義の元に自らの勝利を手にする為、次々と発売されるゲームバンドルへ端金を投げ付けては撃ち落とし、吐き出されるCDキーをSteamやDesuraアカウントにぶち込み続けた。そこにはゲーマー本人すら把握していないタイトル達が、中にはこの先永遠に起動されることもないまま積み上がっていった。

8割以上のゲームがまともにプレイされていないであろう とあるsteamアカウント
どうせウィッシュリストの31本も大して欲しくないものだと思われる(名推理)

こうしたパブリッシャとゲーマー達による勝利は2014年の現在も続いている。そして勝者が存在すれば敗北を喫する者も必ずそこにある。この場合の敗者は他に誰でもなくゲームの作り手、デベロッパ達だろう。ゲームバンドルによってゲームの価値は間違いなく下がってしまった。自分たちのゲームを$20で買ってくれていた1,000人はいなくなり、$1で買っていく数万人が押し寄せてきた。それによって売上が伸びることがパブリッシャとしての狙いで、そしてその目論見はおそらく成功した。しかしデベロッパの目前に広がるのは、自分達にとって$1以下の価値しか無い、取るに足りない存在ばかり。
このように、勝利と敗北は表裏一体だ。しかし正義の裏にあるのが悪とは限らない。ゲームバンドルを正義と信じるゲーマーにとって、ゲームバンドルを拒むデベロッパは悪ではない。ただ「そいつ」は悪ではなくとも、悪態くらいは吐きたくなるだろう。そしてそいつにとって、バンドルを購入するゲーマーはきっと悪だったんだろう。

Developersのタブを一番右にスライドさせることである種の免罪符を得た気になるゲーマー

冒頭の記事にもあるように、ゲームバンドルはユーザーにとってゲームを無価値にし、デベロッパにとってユーザーを無価値にした。間を飛び交う金銭だけが膨らんでいく状況だ。
これによって勝者であるはずのゲーマー、つまり僕が懸念することは、ユーザーの意見すらも無価値になってしまうこと。そのゲームに発売当初から付いていた熱心なファン1000人の声が、あとからやってきたバンドル購入組10,000人の無関心な声にかき消されてしまうんじゃないかということ。そのデベロッパのタイトルを真剣に遊び、真剣に意見したユーザーの反応を無視してデベロッパが姿を変えていってしまうことだ。こんなに悲しい結末は無い。それこそゲーマーとしての敗北だ。

かつて作り手とユーザーの意見交換が行われずに滅亡した国があった
そこで作られていたゲームの一例

ではその悲劇を回避するために僕達が取るべき行動は何なのか。バンドルを買うのを止める?絶対にゲームを定価で買う?無理だ。というか御免だ。嫌だ。一度安くなった物に誰が進んで高値を付けて買いたがる。誰だって同じ商品であれば安い方の店で買うだろう。(最近ではその店の間に無理やり関所を設けて買わせないようにする連中がいるけど、話が脱線するので言及はしない)
ゲームバンドルはゲーマーにとっての正義である以前にパブリッシャにとっての正義でもある(少なくともバンドルが溢れかえる現状を鑑みれば)。この巨大な正義はゲーマーがどうこうしたって今のところ覆せそうもない。

では勝利の方向を変えようじゃないか。安く買うことを勝利、安く買った者を勝者とする風潮はやめにしよう。ゲーマー自身が考える正当な対価を支払えることこそを勝利と呼ぼう。先に挙げたSMBの一件でも、僕自身は$3.75セールで手に入れたゲームであるが、これにはしっかり定価としての、もしくはそれ以上の価値があるとプレイして思った。そう思ったのは勿論定価で買った人の中にもいるだろう。そしてそう思ったからこそ、SMB開発者の次回作「The Binding of Isaac」は発売日に定価で買った。(たった$5の話だけど)
正当な対価を払うことができたこと、裏を返せばそのゲームを真っ当に楽しめたことがゲーマーに取っての勝利である。その勝利にはデベロッパという敗者は存在しない。言葉遊びに聴こえるかもしれないが一人のゲーマーの矜持として、教示として頭の隅に置いておきたい。
だから先日Steamの価格表記がUSD→JPYに変更されるタイミングでダークソウル2が一瞬だけ79円になってたこととか、それを僕が見逃して買えなかったこととか、数日前にAmazonで7千円近く出して買ってたこととかは別に敗北じゃない。僕は負けてない。僕は負け組じゃない。悔しくない。全然悔しくない。悔しく、なんか、・・・・・・あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!おわり。

アサクリ4のDLCも1円でした。そっちはフレンドの方に譲って頂きました。ありがたや~